三方一両損的判決
中日新聞の「中日春秋」でこんな話が載っていた。
韓国の昔話だが、
―――昔、病気にかかった男が、近所の家から流れてくる焼肉の匂いを嗅いて病気が治った。ところがその焼肉屋の家主から金を払えと言われ、驚いて裁判官に訴えると判決も「代金を支払え」という。がっくりして金を出すと裁判官はそれをチャリンと鳴らし、家の主に「においの代金は音だけでいいだろう」。そういって男に金を戻した―――
という韓国の昔話がある。《牛肉さんばん・あすなろ書房》
日本にも「三方一両損」という落語がある。あらすじはこうである。
―――白壁町の左官の金太郎が、神田竪大工町大工熊五郎の財布を拾った。この財布の中には、印形と書付けと三両入っていた。これを熊五郎に届けに行ったら、印業と書付けは俺のものだが、銭は俺のものではないという。話はこうである。
「ああ、たしかに元はおれの銭だった。だけれども、おれのふところを嫌ってよそへ飛び出していった銭だ。そんな薄情なもんに帰ってきてもらいたくねえから、持ってけてんだ」
「ふざけるねえ。てめえの銭と分かってるのに持ってけるもんか」
「どうしても持っていかねえのか? ひとが静かにいっているうちに持っていかねえと、ためんなんねえぞ」
「あれっ、この野郎、おつにからんだいいかたするじゃねえか。おらあ、てめえなんぞにおどかされるような弱え尻はねえぞ」
「なんだと、この野郎、持っていかねえと、ひっぱたくぞ」
というわけで長屋中が大騒ぎになる。そこに大家が出てきて、
「この野郎、たいへんな野郎だ…ねえ、そこのかた、こういう乱暴な男ですよ。こういうやつはくせになるから、南町奉行大岡越前守さまへうったえでて、お白州の砂利の上であやまらせるから、腹も立つようだけれど、まあ、引き上げておくんなさい」
ということで、大岡裁きとなった。
お白州では、熊五郎も金太郎も金いらないと泣いて断る。そこで、
「泣いておるな……よし、しからば両人とも金子をいらぬと申すのじゃな。……なれば、この三両は越前があずかりおくがどうじゃ?」
「ありがとうござんす。そうしてくださりゃあ、なにも喧嘩するこたあねえんで……」
「さて、両人にたずねるが、両人の正直により、あらためて二両ずつ褒美としてつかわそう。どうじゃうけとれるか?」
「えー、お奉行さま、町役なりかわりまして申し上げます。町内よりかような正直者がいでましたのは、あたくしどものほまれでございます。ありがたくちょうだいさせていただきます」
ここで奉行は、
「これ、両人に褒美をつかわせ。さあ、両人ともうけとれ。よいか、このたびのしらべは三方一両損と申すぞ。なに? わからん? わからんければ、越前いってきかせる。こりゃ熊五郎、そのほう、金太郎とどけし折り、そのままうけとりおかば三両ある。金太郎も、その折り、もらいおかば三両ある。越前もそのままうけとりおかば三両ある。しかるに、これに一両たし、双方に二両ずつ褒美をつかわしたによって、いずれも一両ずつ損と相成った。これすなわち三方一両損じゃ」―――
講談社文庫 古典落語(上)興津要編より
いいねェ、大らかで、しかもこれくらいの支払いで。
うなぎ屋の前で匂いだけ嗅いでめしを食べると、匂い代をよこせと言われたら、金の音だけ聞かせればいいのか。
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