仕着せを当てる
辞典で引くと[仕着せ・四季施]とある。四季施は知らなんだ。さてその意味は、主人から使用人にその季節の衣類を与えて着させること。その衣服。転じて上から一方的に与えられた物質。△普通「お仕着せ」という形で使うとある。
僕らの子供のころ、戦後間もなかったから、物資は乏しく、衣類なんて上からの払い下げで、代々受け継いできた骨董のような代物である。私の兄弟は、姉妹と書いたほうがいいくらいで、女四人と男の私一人であったから、払い下げはないと思うでしょうがところがドッコイ、親戚から母親が貰い受けてくる。
下になるほど、破れたところに同じ色柄の小布で継ぎ当てされたところが多くなる。私たちはこれを「仕着せを当てる」と言っていた。
だから上からの払い下げも「仕着せ」なら、「継ぎを当てる」も「仕着せ」であったから、仕着せに仕着せをしたので、走り回っていた。破れればまた仕着せをすればいい。
いい物なら買い換えなくてはいけないが、ヒジや膝に仕着せがされていれば、こちらも安心して遊べた。
先日、帽子のハンチングを買った。私は帽子が好きでねェ。昭和36年当時、入社まもない私が、チロリアンハットをかぶって出社して、周りを唖然とさせた。
車のセールス時代、お客さんにインパクト与える意味で、ベレー帽をかぶってセールスをした。最初上司から「会社に遊びに来ているンけ」と叱られたが、会社から出るとベレー帽をかぶった。それが大当たりでねェ。お客さんから「ベレーのセールスいるか」の電話で通じるようになった。大きな会社や役所では、ナカナカ全員に面談ができない。だか「ベレーをかぶったセールス」というネームだけが一人歩きして、「ベレーのセール」と電話が掛かってきた。とうとう上司も諦めた。それほど好きだった。
帽子屋の前で眺めていると、オヤジが出てきた。私の頭に合うのは、これしかないと、ハンチングを持ってきた。
よく見ると、ツバは破れているし、後頭部には仕着せがしたてあっ
た。そして店のオヤジの言い草は、「これが今の流行で、アンタに合う帽子はこれしかない」という。悔しいが、実は私の頭は、それほど大きかったからだ。
今でもこれがお気に入りで、仕着せを当てたハンチングをかぶっている。
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