キャベツには、ソースかしょう油をかけるか悩む
とんかつ屋に入る。
カツにはすでに店のタレが掛けてある。ここでフト、もしカツに店のタレがかかっていなかったら、私ならソースをかけるだろうなァ。ではカツの枕になっている部分のキャベツを実に細いみじん切りには何をかけたらいいのだろう。カツにかけたソースが流れ落ちてキャベツに幾分滴り落ちる。
でもどうしてもキャベツにはしょう油を掛けたいという衝動にかけられる。ならばカツの枕になっているキャベツを取り払い、主役のカツには申し訳ないが、皿の上にじかに寝てもらうことになる。そこで脇役のキャベツと別離して、カツにはソースをかける。ここで私は洋ガラシを多めにすくい取り、カツ一切れずつに丹念に洋ガラシを塗っていく。
むかし稲沢の洋食屋で、カツの衣にどう考えても洋ガラシを混入させた香りがする。鼻にツンとくるというのではない、ほのかに香りが来る。これが好きでねェ、よく通ったものだ。このカツに洋ガラシというのは、この後遺症かもしれない。
そしてキャベツにしょう油を垂らす。アレ?ソースじゃないのと、
「チョイ待ち!」とささやく声がする。
「だれだ?」
「ワシは<炭焼き水野>の串カツじャ」という。
「なんでやァ、なんぞ用きゃ」
「あんたはウソこいている。あんたは串カツを食べるときにわが店のソースにダボンと串を入れて、その後、その串に3cm角に切ったキャベツをブスッと刺してソースの中に付けて食べている」
ここの店のソ-スは、どちらかというとウスターソースやケチャップが入り、少しどろっとしている。何をどう混入させているかは、味覚感覚の鈍感な私のは判別できない。それにコショウを隠し味にしているような気がする。これはこの一宮地方だけの物なのかは不明。どこでも串カツを食べるときに出てくるが、微妙に味が違うのは店の売り物なんだろう。15×20cmほどの四角い病院にあるような白いトレーにソースがタップシ入っている。
串カツソースを検索を繰り返していたらでてきた。赤ワイン80cc・ウスターソース300cc・ケチャップ小匙1・トンカツソース大匙1・蜂蜜大匙1・ザラメ大匙2・カツオ出汁80ccと判明した。こうなると企業秘密もあったものでない。ウスターソースとケチャップは当たったがやァ。
キャベツにはワシはしょう油だなァと思った。
「チョイ待ち」
「だれでやァ」
「ワシは<角屋>の串カツだがねェ」
「あんた、ワシンどこでよう、赤味噌のドテの汁をタップしかけて食べとるぎャ、ワシンとこは特製ソースもあるが」
「そりゃ、串の話だろうが、いまキャベツの話をしとるんだがやァ、邪魔せんといてちョ」
「悪かったえも」
ソースかしょう油かで別れる一番顕著なのは、卵である。生の玉子掛けごはんの場合は、しょう油以外に考えられない。これが玉子焼きになると、しょう油かソースに分かれる。これを一度調査したことがある。まず年代を昭和40年まで遡る。そのころハッキリした文化に違いがでていた。
しょう油……田舎の人、ここはもともと味噌は自家製であった。当然副産物にタマリができる。これで十分調味料になるから、玉子焼きにもタマリ(しょう油)を掛ける。しかも田舎より奥地のヤマガの人に多い。(家内)
ソース……町の人。文化の伝達が早かったからだ。しかも味噌は買わなくてはならない。当然目の前にソースがあるからそれを購入する。(僕)
もう一つ、少し悩んだことがある。卵と玉子の漢字をどう使い分ければいいのか。そこで調べると、
――たまごは、殻のある状態のときは“卵”、料理されると“玉子”と使い分けるんです。
だから、たまごやきは”玉子焼き”と書きますよね。――
ゆで卵になったばかりの時は、「卵」で、皮を剥いた瞬間に「玉子」になるのかね?まるでシンデレラだがやァ。
話を玉子焼きに戻ると、たまにへそ曲がりがいて、塩という人もいる。
ところが茹で卵になると、しょう油もソースも姿を消す。塩一筋になる。茹で玉子にしょう油やソースをかける人はよほどの変人か偏屈と見た方がいい。
話がゴチャゴチャになったが、ソースもしょう油も腹に入れば皆ゴチャゴチャである。名古屋駅のコンコースのキヨスクに、名古屋名物「みそたま」がある。これは赤味噌のドテに長時間ゆで卵を入れておくと、赤味噌色したゆで卵ができあがる。一度ご賞味あれ。オレ好きなんだわァ。
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